それからです。私の運命は大きく変わりました。私は先生の紹介で佐賀県鹿島市の夢木香という工務店で働くことになります。縁もゆかりもない佐賀で働く事に少々不安はあったものの、私はそこで本当の家づくりを目の当たりにしました。大工さんが、大きな大きな丸太を墨つけ、鑿で刻む姿。左官さんが泥を捏ね、竹小舞の下地に塗りつけ、貝灰から漆喰をつくり、土壁の下地に塗って金鏝で仕上げていく姿、多くの職人さんの力で家が完成していく姿を目の当たりにして、毎日が感動の連続でした。そして。ここで民家再生の真髄を学ぶことができたと思います。本当に毎日がワクワクと驚きの連続で職人さん達の仕事の素晴らしさ、お世話になったお客さんからも沢山の事を学ばせていただきました。
そして、夢木香の松尾進社長の口ぐせだった「若い職人ば育てにゃならん!(若い職人さんを育てていかなければならない!)」という言葉は、今の私の設計理念の一つになっています。
それから再び熊本の古川設計室にて5年間。設計・監理の実務に携わらせていただきました。古川設計室では設計事務所と工務店3社、そして電気屋・建具屋・板金屋さんが集まって「川尻六工匠」というグループで家づくりをしています。この息の合ったみなさんと家づくりを進めてきたことは、団結力と安心感がありました。皆お客様のためにいい家をつくろうと息の合う仲間たちと共に日々働けること。こんなことは、なかなかできない事だったと、そしてそれは本当に幸せな事だったと今では感じています。
そうして私は故郷大分で設計事務所を立ち上げました。
1人になって思ったこと。それは。共にいいすまいをつくろうという同志。仲間を見つけなければならないということでした。幸い、私は古川設計室での最後の仕事となった大分県佐伯市の「遊志庵」に担当者として携わることができ、大分に帰っても監理の仕事を手伝わせていただきました。
そのおかげで、佐伯市の寺岡建築の寺岡棟梁をはじめ、熟練の大工さん、左官さん等の多くの職方さんと知り合うことができ、大分で第一棟目の「大きな屋根の小さなすまい」を設計し、2018年4月に完成致しました。このすまいは平成28年度サステナブル先導事業「気候風土適応型住宅」として採択され、只今(2018年)施主さんと一緒に温湿度測定を行いながら、光熱費の使用量を記録し、すまい心地をヒアリングして検証しています。
伝統構法の住まいは、未来のことを考えたすまいだと日々感じています。私は、この伝統構法の住まいを多くの方に知って頂きたいと思っています。職人がつくる日本の伝統的な住まい。地球のこと、日本のこと、地域のこと、山のこと、職人さんのこと、未来のことすべてにつながる家づくりだと思っています。
100年後、古民家と呼ばれるすまいを目指して。日本の伝統建築の職人の技を未来へ。